老人力という言い方がある。老人だけに特権的に与えられている力だ。若い人は発揮しようとしてもできない。病気で入院しているときに思ったことがある。健康な人には発揮できない「病人力」と呼べるものがあってもいいのではないかと。
入院すると、担当の医師や看護師が、患者の病気を治すために全力をあげてくれる。患者としてできることは何だろう。それは病人力を発揮することだ。たとえば、病気を克服したいという強い意志を持つことは病人力だ。病人力は自己治癒力である。それは患者しか発揮できない。
入院中に病院でたまたま見たドラマで、末期癌の患者を、こう励ますシーンがあった。「あなたはいま、奇跡を起こす特権が与えられているのです。奇跡を起こして皆を感動させること、これは健康な人にはできません。あなたにはその力があるのです」 これこそ病人力だ。
病気になると、健康なときには気づかなかったさまざまな発見がある。それによって人生観が変わることがある。人の有難さがわかる。それまで無駄にしていた時間の大切さも実感する。いま生きていることに感謝する。そのような気持ちにさせる力、それも病人力だろう。
病気になると、いいことがたくさんある。あくせく働かなくてもいい。仕事のキャンセルも正々堂々とできる。一日中ベッドにいても人から非難されない。これは素晴らしい特権だ。病気は、それを発揮できるチャンスだ。病人の自分勝手かもしれないけれども、それも病人力だ。
病人力は、錦の御旗、黄門の印籠に相当する力がある。あまりにも強力なので、病人でなくても、その力を利用しようとする人が出てくる。いわゆる仮病がそうだ。都合が悪くなると突如入院して、面会謝絶にして、病人力に頼ろうとする政治家もでてくる。
病気は悲しい、誰でも好きで病気になるわけではない。一方で、生きるということは、病気ともつきあうことだ。病気になれば「病人力」を持つことができる。それは健康な人には与えられていない。病気を神が与えてくれたチャンスと考えて、「病人力」を発揮しよう。発揮しなければ損と思おう。