日本人の黒目は二通りの部分からなる。虹彩と瞳(瞳孔)。虹彩は遺伝によって色が違う。一方で、瞳はみな黒い。瞳に入射した光が反射しないからだ。その瞳に人は惹きつけられる。「君のひとみは10000ボルト」という歌もある。瞳にはどのような秘密があるのだろう。
よくよく観察してみると瞳の形は動物によって違う。猫は縦に長い垂直のスリットになっている。夜行性の動物の目は縦長が多い。一方で昼行性の草食動物である馬やヤギは横長のスリットだ。昼行性でも肉食動物や霊長類は瞳が丸い。もちろん人の瞳も丸い。
虎と猫はよく似ているけれども、瞳の形が違う。虎の瞳は丸いけれども、猫は縦長だ。江戸時代に描かれた虎図の瞳は、縦長になっているものが少なからずある。日本には虎がいなかったので、想像で描かれたからだ。その虎図はどうしても猫に見えてしまう。
瞳は、目に入る光の量によって大きさが変わる。それだけではない。相手に関心があると大きく見開く。その瞳でじっと見つめられたら、それは相手が自分に恋している証拠かもしれない。そしてそれを見た自分の瞳も大きく広がる。瞳と瞳が感じあったとき、そこに新たな関係が生まれる。
昔、ある女優の黒い瞳が魅力的だと評判だった。視線があっても、決してそらさない。じっとこちらを見つめてくれる。男のファンはみなそれでゾクゾクっとしてしまう。聞いてみたら何のことはない。視力が悪くてコンタクトもつけていないから、視線があってもわからない。それだけのことだった。
とうの昔だけれども、長男が生まれたとき母親がそばにいないと泣いてばかりいた。一計を案じて、サインペンで母親の顔を描いてそばにおいたら泣き止んだ。何が本質かと思って顔の部品を一つずつ除いていったら、二つの黒の丸だけで大丈夫だった。母親の瞳は赤子を安心させる力がある。
瞳は大きさではない。むしろ大切なのはその輝きだ。感動しているとき、将来に夢を持っているとき、そして人に恋しているとき瞳は輝く。願わくば、すべての人の瞳が輝く時代がきてほしい。かなり大げさに言えば、人類の未来のためにも、瞳の輝きにこだわりたい。