工学 2014.02.16-02.22 

総合大学で工学部はもっとも学生数が多い。にもかかわらず大学に入学する高校生は、工学に対してどれだけの知識を持っているのだろうか。高校の先生方は工学をどのくらい理解しているのだろうか。高校の普通科には、工学の時間はない。そもそも工学とは何なのだろうか。

受験業界や高校の進路指導では、工学は理系扱いされている。受験科目として数学や物理学などがあるからだ。大学でも理系とするところが多い。でも本当に工学は理系なのだろうかと最近思う。理系的な発想だけで、真に優れた技術を生み出せるのであろうか。

産業革命以降のこれまでの工学は応用理学であった。発展途上期はそれでいい。成熟期を迎えた工学は方法論ではなくて、そもそも何を目的としているかによって定義すべきだろう。その立場からは、工学は明らかに「文化創造学」だ。技術はもともと人が創意工夫して生み出した文化である。

20世紀までは物質的な豊かさの提供が文化であった。それを工業が担ってきた。その限りでは、文化創造学は「工業生産学」でよかった。いま、工学部の学科のほとんどが工業生産学になっているのは、その名残である。しかしそれはいま変わろうとしている。変わらなければならない。

工学が文化創造学である限り、その基礎科目は理系だけではない。美への感性そして人間の理解がなければ、文化は創造できない。その意味では、芸術や心理学も基礎科目としてあってもいい。しかしいまほとんどの学科でそのような教育はおこなわれていない。方法論しか教えていない。

文化創造学としての工学の大先輩は建築である。数千年の歴史がある。そこでは、建築の構造だけではなく、意匠(デザイン)もきちんと教えている。他の学科で教えているのは、ほとんどが構造に相当する科目だ。デザインはすべての工学の基礎科目であるはずなのに。

工学は社会のインフラ整備を目指してきたが、これからはその上にどのような文化を築くかが問われている。僕は工学部で36年間教えたのに、工学が文化創造学であることに気づき確信したのは、恥ずかしいことに定年直前になってからであった。