意志の時代 2014.11.30-12.06

2000年6月に「工学は何をめざすのか。東京大学工学部は考える」と題した本が出版された。編集の中心になったということもあって、第一章の執筆を丸ごと担当した。そこでのメッセージは「21世紀は意志の時代となる」であった。いま改めてその重要性を痛感する。

科学技術の研究には、未来予測が欠かせない。さまざまな予測がなされている。でもその予測はどうしても現在の技術の延長になる。時代を大きく変革する技術の登場は予測できない。革新的なイノベーションは未来予測からは生まれない。

20世紀は右肩上がりの時代であった。その成長曲線を外挿すれば、それなりの予測ができた時代であった。それに対して、21世紀はそう簡単な時代ではない。たとえば1972年のローマクラブの「成長の限界」が示しているように、21世紀は20世紀とは本質的に違う時代となろう。

科学技術は、いまや金と時間をかけさえすれば、何でも実現できる時代となった。東西冷戦時代の宇宙開発は、膨大な研究費を投入して人類初の月面着陸を達成してしまった。核融合によって太陽をつくることも夢ではない。そのような時代に大切なことは、何ができるかではなく、何を選択するかである。

21世紀にはさまざまなシナリオが用意されている。そのいずれを選択するかは、これからの時代を生きる人たちの意志にかかっている。いま我々に問われているのは「未来はどうなるか」という予測ではない。むしろ「どのような未来を実現したいか」という意志が問われているのだ。

科学技術の研究にはシーズ志向のモード1と、ニーズ志向のモード2がある。むしろこれからは、単なるシーズやニーズでなくて、未来へ向けたウィル、つまり意志が大切な時代になる。それは鎖国型でも輸入型でもない。研究者から見ればいわば輸出型のモード3の研究である。

これからの科学技術研究は、どのような未来を望むかという明確な意志を持ったビジョン発信型、メッセージ発信型であってほしい。それを社会に対して積極的に訴えかけてほしい。未来とは予測するものでなく、創り出すものなのだ。