力は重力や電磁力だけではない。どんなに天才の物理学者でも手に負えない力が、この世にはある。それは「魅力」だ。僕は理系だけれども、個人的にはその力の方に関心がある。人間社会では、重力や電磁力よりも、魅力の方がはるかに重要だと思うからだ。
物理的な力は数学で記述できる。重力も含めた超大統一理論も、早晩解決するであろう。これに対して「魅力」ははるかに難問だ。重力は物の質量に対して働く。一方の魅力は人の心に対して働く。それは心のどの部分に働くのであろう。それを記述する数学のような言語はあるのだろうか。
重力や電磁力は物理学的な力で、宇宙の誕生とほぼ同時に登場した。これに対して「魅力」の登場は、生物の誕生以降だろう。その意味では魅力は生物学的な力だと言える。たとえば有性生殖をする生物は、互いに魅きあう魅力がなければ子孫を残せない。
魅力のなかでも、特に男と女を魅きあう力の解明は、超難問だ。その力が解明されていれば、僕は苦労することはなかった。試行錯誤を繰り返して失敗することもなかった。重力が解明されても、それが人生を変えることはないけれども、魅力は違う。魅力は人の一生を変えるほどの力を持っている。
力を運ぶのは粒子であることが知られている。重力はグラビトン、電磁力は光子、強い力はグルーオン、弱い力はウィークボソンだ。性的魅力については、フェロモンという化学物質がある。僕の友人に異性をフェロモンの有無だけで区別する不届きな人がいたけれども、彼は正しかったのかもしれない。
4種類ある物理的な力は、対称性の乱れによって分化した。「魅力」も同じかもしれない。人と人の間には、さまざまな対称性の乱れがある。その乱れがさまざまな魅力を生む。その種類は物理的な力に対して比べ物にならないほど多い。だから魅力は複雑怪奇なのだ。
「魅力」は男女関係に限らない。より一般的に社会的な力でもある。社会を形成するのは、人々を魅きつける力=魅力だ。物理的な力は教科書があるけれども、魅力は書店に山積みされている解説本を読んでもほとんど役に立たない。それは遥かに難問で、しかも奥が深いからだ。