優化 2016.05.15-05.21

辞書で反対語を調べてもなかなか見つからない言葉がある。例えば「劣化」の反対語は何か。手元の辞書では見つからない。反対語として「優化」があってもよさそうなのに、少なくとも日本語にはない。なぜ劣化があって優化がないのだろう。

時間とともに性能が悪くなる経年劣化に対して、逆に良くなる「経年優化」。この言葉は登録商標されている。登録商標になっているということは、普通名詞としては使われてこなかったことを意味する。そもそも人工物には経年劣化があるけれども「優化」はないということなのだろうか。

自然劣化という言葉はあるけれども、「自然優化」はない。自然は劣化させるだけ、そこには自然を敵対視する近代の価値観がある。例えば近代建築は、新築されたときが最も美しい。後は自然に劣化するだけ、そのような設計思想で作られているような気がする。

伝統的な日本建築は、古い建物ほど味がある。そこには自然とともに作られた美がある。仏像もそうだ。もともとは今から見ると成金的に極彩色であった仏像が、長い年月を経て磨きがかかる。そして光り輝く。それは決して劣化ではない。まさに「経年優化」「自然優化」だ。

家は人が住んでいないと急に劣化する。それは家が人とともに呼吸しているからだ。呼吸しながら一緒に成長するのだ。酒の醸造もそうだ。衣服や道具も、最初は違和感があっても、次第に人に馴染む。人が営んできた技術とは、もともとはそういうものだったのだ。

人は誰でも歳をとれば老化する。それは単に経年劣化だろうか。僕はそうは思わない。むしろ、人は歳をとればとるほど磨きがかかる。若い時にはない風格がにじみ出る。人には「優化」がある。それこそが人生である。僕はそう信じている。

顔も歳とともに「優化」する。若いときの顔が一番魅力的で、あとは劣化するだけという考え方に立てば、アンチエイジングになる。でも、過去の栄光にすがる生き方では寂しい。経年劣化ではなくて「経年優化」、歳とともに顔が美しくなるビューティフルエイジングを目標としたい。