いま僕は大学で「後期教養教育」を担当している。教養教育は大学では専門に進むための準備として位置づけられている。それは前期教養教育だ。それに対して、専門を修めた後にあるのが後期教養教育だ。後期教養とは何か。なぜそれが必要なのだろうか。
後期教養は、すでに専門分野で活躍しつつある人を対象とする。大学では例えば大学院レベルだ。社会人向けもある。第一線で活躍することによって初めて教養の大切さがわかるようになる。何を学ぶべきかもわかってくる。後期教養こそが生きた教養なのだ。
後期教養として大切なことは、広い視野を持つことだ。狭い専門に閉じこもっていると、井の中の蛙になりやすい。そうでなく大海があることを知ること、それが教養だ。広い視野で俯瞰することによって、自らの専門を位置づけることができる。他の分野との関係も見えてくる。
後期教養として大切なことは、自らを相対化することだ。自分中心でいると、自らを絶対的なものとして、周りを見下してしまう。多様な価値観があることを知り、むしろ周りから自分を見る目を養うことが大切だ。それによって、自らの本当の姿が見えてくる。他者への理解も深めることができる。
後期教養として大切なことは、歴史的な視点をしっかり持つことだ。今=現在には必ず歴史的な時間の流れがある。それを理解せずに、今しか見ていないと時代を見誤ることになる。今という時間は、過去から未来への懸け橋だ。その橋をいかに懸けるかによって未来が決まる。
後期教養として大切なことは、本物に出会うことだ。美術では下手な絵ばかりをみていると、名画がわからない。逆に日頃から名画に接していると、下手な絵がわかると言われている。人も同じだ。書物やメディアからではなく、人を通じてしか得られないものがある。それが本当の教養であろう。
後期教養として大切なことは、心の余裕だ。今の時代、ひたすら前進することも必要だけれども、それだけではない。時には立ち止まることが要求される。心の余裕がなければ立ち止まることはできない。そもそも立ち止まる意味もわからない。それをわからせてくれるのが後期教養だ。