人も含めた生物には適応能力がある。そのときどきの環境の変化に適応できた生物が生き延びてきた。しかし適応が度を過ぎると、逆に絶滅の原因になる。特定の環境に適応しすぎると、その環境が激変した時に追随できなくなるからだ。生物学では、このような過適応を「特殊化」という。
いまから二億年前、地球の酸素濃度が上昇すると、低酸素時代を生き延びた恐竜が巨大化した。しかしその特殊化は、六千五百万年前に巨大隕石が落ちて地球環境が変わると、逆に仇となった。結果として恐竜は絶滅した。代わって身体を特殊化させなかった哺乳類の天下となった。
二百数十万年前、アフリカの乾燥化が進んで果実が乏しくなったとき、顎や咬筋を極端に発達させて、硬いナッツ類を食物とした人類(頑丈型猿人)は結果として絶滅した。これに対して、身体は特殊化せずに、道具を使って肉食を始めた人類(華奢型猿人)は生き延びて、我々の祖先となった。
二万数千年前、ヨーロッパでネアンデルタール人が滅亡した。なぜか。一説によれば、寒冷な気候に自らの身体を特殊化したため、その後の地球の温暖化に適応できなかったからだとされる。これに対して身体は特殊化せずに、衣服等の文化によって対応したクロマニヨン人は生き残った。
人類はいま、自らが作りだした人工的な環境に囲まれて生活している。そしてその環境に自らの身体を特殊化してしまったように見える。もはやほとんどの人類は、管理された空間でしか生きられない。これは人類学の用語で自己家畜化と呼ばれている。
生物の歴史を見ると、その時代の環境に過度に適応して、自らの身体を特殊化した種は絶滅してしまった。いま人工的な環境に自らを特殊化してしまった人類は、これからどうなるのか。生き延びるために遺伝子操作によってさらなる特殊化を繰り返して、そして絶滅するのであろうか。
特殊化は生物学や人類学だけの概念ではない。現代社会においても、そのときどきの流行やブームに過度に特殊化してしまった組織は、時代の流れが変わると適応できなくなる。生物や人類がたどってきた歴史を、現代人は謙虚に学ばなければならない。