リセット 2017.06.04-06.10 

僕が気になっている用語にリセットがある。もともとの意味はセットし直すことだけれども、コンピュータの分野では、初期状態に戻すことをいう。コンピュータがフリーズしてしまったときの最後の手段だ。この最後の手段は大切だ。それがあれば安心してコンピュータを操作できる。

リセットは、生きていく上でも大切だ。人生いつもうまくいくとは限らない。いったん過去の状態に戻して、そこからやり直したくなることがある。いわば心機一転巻き直しだ。もうどうしょうもなくなったとき、リセットさえできれば、また始めることができる。

リセットには二通りある。仕方なくそうなるリセットと、自ら進んでするリセットだ。例えば一時の気の迷いで罪を犯すと、それまでの栄光がリセットされる。一方でリセットは、人生の智慧でもある。どのような人生であっても、リセットできれば再出発できる。

リセットは、それがあるから冒険ができる。現役の教師だったとき、かつて学生にこう言ったことがある。学生の特権は、卒業時点で学生時代の失敗をすべてリセットできることだ。社会に出てからはそうはいかない。リセットできるのだから、学生のうちに冒険しなければつまらない。

リセットは確かに勇気がいる。コンピュータのリセットは、作業内容を消してしまう。人生のリセットは、努力して積み重ねてきた人生の蓄積を無にしてしまう可能性がある。消したい過去だけをリセットできればいいけれども、そうはうまくいかない。人生はそう簡単ではない。

余談だけれども、ある家電機器で、電源ボタンに「電源(リセット)」と記されていた。特別な使い方をするとリセットになるのだろうけれども、これは最悪のインタフェースだと思った。リセットが怖くて電源ボタンを押せなくなった。リセットボタンは他の機能と併用してはならない。

人生をリセットするという言い方がある。この歳になるとその意味がすこしわかるような気がする。だれにも人生の初期状態がある。子どものときの初心だ。その初期状態に再び戻って、残された人生をもう一度やり直す。例えば定年は、そのようなリセットのいい機会なのかもしれない。