T型人間 2017.11.12-11.18

50年以上前に大学の工学部に進学したとき、長老教授からこう言われた。工学部の記号はtechnologyのTだ。これには2本の棒がある。縦棒は専門を深く、横棒は学識を広くという意味だ。工学を志す者は専門だけのI型でなくて、学識も備えたT型人間でなければいけない。

縦棒が1本のT型人間に対して、これからの時代は2本の縦棒を持つべきだとする主張もある。これをπ(パイ)型人間という。さらに縦棒を増やせば、形は櫛(くし)型になる。専門を1つ習得するだけでも難しいのに、どこまで縦棒を増やすべきか悩ましい。

T型の横棒(広い学識)はどこまでカバーすべきか。すべての分野をカバーできるはずがない。僕はこう言っている。Tの横棒は、異なる専門(つまり縦棒)を持つ人と手をつなぐためにあると。手をつなげばそれぞれで複数の縦棒を用意しなくても、集団でπ(パイ)型、さらには櫛(くし)型になれる。

T型人間が横棒で別のTと手をつなぐためには、手をつなげるだけの横棒(広い学識)の長さが必要とされる。それだけではない。相手に尊敬される縦棒を持っていなければ、その人と手をつなごうという気になれない。縦棒(深い専門)は手をつなぐためにも重要なのだ。

工学で要求されるT型の横棒は、コミュニケーション能力でもある。工学が対象とする技術は、1人の力では実現できない。分野が異なる専門家がチームをつくって協力する必要がある。そのためには互いに手をつないでコミュニケーションすることが必須となる。

手をつなげる学識とコミュニケーション能力、これ以上にT型人間で大切なことがある。手をつないだけれども、ひどい目に会った。二度とご免だ。そう思われるようでは真のT型人間とは言えない。また手をつなぎたい。そう思ってもらえるのは何か。人間的な魅力だ。

人はみな関係の中で生きている。手をつなぎながら生きている。T型人間は、相手に尊敬される縦棒(深い専門)と手をつなげる横棒(広い学識)を持つ。これに加えてコミュニケーション能力と人間的な魅力がある。T型であることは工学に限らず、すべての人に共通して必要なことなのだ。