物言えば唇・・ 2018.08.26-09.01

「物言えば唇寒し秋の風」これは芭蕉の句で、人の短所を言ったあとは寒々とした気持ちに襲われるという意味だ。転じて「口は災いのもと」の意味でも使われる。確かにごく小さなことでも、不用意に発言すると唇が寒くなることがある。一方で、果たして「沈黙は金」なのだろうか。

「物言えば唇・・」西洋では、会食のときに宗教と政治の話題は避けるというマナーがある。それを話題にすると折角のご馳走がまずくなってしまうからだ。日本では教育の話もタブーになっているらしい。それぞれ一家言あるからだ。みな自分の意見が正しいと信じているからだ。

「物言えば唇・・」タクシーで野球の実況中継が流れている時に、安易に片方を応援する発言をしてはならない。運転手が相手チームの熱烈なファンかもしれないからだ。それだけで密室状態のタクシーの中は険悪になる。運転が乱雑になったら、命も危ない。

「物言えば唇・・」今日は図に乗ってしゃべり過ぎた。もっと謙虚に相手の言うことを静かに聞くべきだった。そう反省することはたびたびだ。「人の短をいふ事なかれ、己が長をとく事なかれ」。人の悪口だけでなく、自慢話をしたときも唇は寒い。

「物言えば唇・・」ツイッターで何を言っても、唇が寒くならない政治家もいる。たとえそれが人の悪口であっても、秋風なぞどこ吹く風だ。おそらく彼には、芭蕉の句はまったく理解できないだろう。芭蕉と彼はどこが違うのだろう。氏だろうか、育ちだろうか。それとも生まれた星が違うのだろうか。

「物言えば唇・・」いま行政で、物を言うと唇が寒くなるような状況になっているとも聞く。責任ある立場の人は、言わなくてはいけないときは、自らの信念に基づいて嘘偽りなく正直に言う。それが責任というものだ。もしそれもできないようになっているとしたら、この国は危ない。

「物言えば唇・・」物言うメディアは、いまはネットかもしれない。唇が寒くなるだけならば、まだいい。袋叩きにあったり、身に危害が及んだり、さらには権力から睨まれるようになると問題だ。戦前の社会では、自由に物言うことができなかった。そのような社会には絶対になってほしくない。