首 2019.05.26-06.01

顔の研究に少し関わっていると、ときどき質問されることがある。人には首があるけれども、それは顔の一部ですか。それとも別の部位なのですか。首実検という言葉があるけれども、検査されるのは首ではなくて顔ですよね。なぜ首なのですか。

首は頭部と胴体をつなぐ部位である。首がないと両者の区別ができない。魚には首はない。首ができるのは両生類からだ。蛙には首がある。でも縦に少し振るだけだ。爬虫類になると首は自由に動くようになる。そこから進化した鳥類や哺乳類には首がある。

首は命と密接に関係している。首は頭部と胴体をつないでいる。頭部には脳が格納されている。エネルギーの取り入れ口である口や鼻もある。これに対して胴体には胃などの消化系や心臓・肺などの循環系がある。首を切断したら人は確実に死ぬ。そこを絞めつけるだけで死へと至る。

首の大切な役割は、頭部を安定に支えることだ。特に人は頭部が重いので、それを日常的に支える首に負担がかかる。成人の頭部の重さは体重の1割とされているので、5~6キロの重さを支えていることになる。姿勢が悪いと当然ながら肩こりや首こりの原因となる。最近は「スマホ首」も問題となっている。

首は前後左右に動かすので、そこにある皮膚は伸縮を繰り返す。するとそこに皺ができて、老化すると固定化されて目立つようになる。化粧でいくら顔の皺をカバーしても、首の皺は隠せない。本人には残酷だけれども、首をみればその人の歳がわかってしまう。

総理大臣は首相とも呼ばれる。首位、首都も首だ。なぜ首なのだろう。それは漢語では首が頭部という意味だったからだ。顔の旁(つくり)の頁に髪の毛をつけてハを省くと首になる。頭部と胴体をつなぐ部位は、厳密には頸部と呼ばれる。そこにある動脈は頸動脈であって、首動脈とは言わない。

いわゆる首は顔の一部なのか。顔にはさまざまな定義がある。解剖学的には骨格で定義するので、首は顔ではない。一方で僕は、毎朝顔を洗うときに洗う範囲が顔であると定義している。僕は顔を洗うときに首も洗う。毎日を反省する意味もある。したがって僕にとっては、首は顔の一部だ。