怪人二十面相 2019.08.11-08.17 

僕は小学生の頃、怪人二十面相に憧れていた。もともとは戦前の「少年倶楽部」に掲載された小説であったが、僕が愛読したのは昭和20年代中頃から30年代にかけての「少年」だった。それを毎月友達から借りて貪るように読んだ。それが僕の少年時代だった。

怪人二十面相は、その名の通り二十の違った顔を持つ。それでは満足できなかったと見えて、四十面相になったこともあった。シリーズ合計で111回もの変装をしたという報告もある。僕も変装術を身につければ、親の目を盗んでさまざまな冒険ができるのに。子ども心にそう思ったこともあった。

怪人二十面相のモデルは、原作者の江戸川乱歩の自作解説によれば、かの怪盗ルパンだったらしい。いまではその孫のルパン三世が有名であるが、もともとのルパンは、20世紀初めの冒険小説「アルセーヌ・ルパンシリーズ」の主人公で、怪盗紳士と呼ばれていた。やはり変装の名人だった。

怪人二十面相は、盗賊であるけれども、決して人を殺したり、傷つけたりしない。脅すために使うのは、ほとんどがおもちゃの拳銃だ。怪人二十面相は血が嫌いだ。戦時中に探偵小説が禁止されたのも、それでは戦意高揚ができないと、軍部が判断したからなのかもしれない。

怪人二十面相は、金銭を盗むことはない。狙うのはもっぱら美術品や宝石だ。それを売りさばくこともしない。秘密の美術館があって、盗んだものはすべてそこに陳列する。それが怪人二十面相の目的だった。怪人二十面相はコレクターでもあったのだ。

怪人二十面相は、本名は遠藤平吉で、もともとはサーカスの曲芸師だったらしい。怪人二十面相はプロペラを使って空を飛んで逃亡する。まさにそれは曲芸師だ。変装の達人であることも、サーカスにいたときにそれを習得したとすれば、なるほどと頷ける。

怪人二十面相は、脱獄の名人だ。どの話も最後は、ライバルの明智小五郎との知恵比べに負けて牢屋に入れられる。でもそれで終わりにならない。必ず見事に脱獄する。そして次の活躍が始まる。怪人二十面相は不死身なのだ。鉄塔から身を投げても死なない。怪人二十面相はいまもいる。僕は信じている。