土 2020.01.19-01.25

いま都会はほとんどがコンクリートなどの人工物で覆われ、土に直接触れることがなくなった。そこで育った子どもたちは土いじりをすることが、ほとんどなくなった。現代人は、土と切り離されて生活するようになった。土が身近でなくなった。

土は不潔だ。触るものではない。触ってしまったら、すぐ手をしっかり洗おう。もし親が子にそのような躾をしているとしたら、それはいつからだろう。僕が小さかった頃は土に触れることは当たり前だったから、ここ数十年のことだろう。長い歴史の中で、人は土とともに生きてきたはずなのに。

土が疎遠になった一方で、定年後に土をいじる人生を送る人が増えている。これは何を意味するのだろうか。たまたまその世代に土の記憶が原体験としてあって、そこに回帰しているだけなのか。ゲームを原体験としてもっぱらバーチャルな世界で育った世代も、将来は土をいじることになるのだろうか。

土は細菌だらけだ。1グラムの土に数億から数十億の細菌(土壌微生物)がいるらしい。だから土が不潔とされているのかもしれない。その細菌は、さまざまな生物の死骸を分解し、新たな生物が育つために必要な養分に変えている。土がなければ、自然の生態系はありえない。もちろん人も生きていけない。

自然界の循環は、土が担っている。その意味では最終的に土に還ることがない物質は創るべきではない。それに対して近代は、自然の生態系に反する物質を、むしろ文明の成果とみなして誇らしげに生産してきた時代であった。それをいかに廃棄するかが、いま深刻な課題となっている。

土には、地球が誕生してからの46億年の記憶が刻まれている。地層を見れば、それがわかる。その地層に、これから先どのような記憶が刻まれるのであろうか。ある地層には、プラスチックや核廃棄物などが汚染物質として堆積されている。未来の地質学者はそれを発見することになるのだろうか。

人も含めて生きとし生けるものは、すべて土から生まれ、土とともに生きている。そして最後は土に還る。輪廻転生ではないけれども、それはまた新たな生命の源となる。それが本来の姿だと最近思うようになった。それは歳のせいなのだろうか。それともそろそろ・・・